· 

カムイエクウチカウシ山

カムイエクウチカウシ山。

おそらく字数では日本でもっとも長い名前の山だろう。

アイヌ語の意味は「熊が転げ落ちる山」と言われているが実際にはアイヌの説明が聞き取れなかった倭人が勝手に置き換えたと言われる説もある。

 

カムエクは50年ほど前に福岡大学ワンダーフォーゲル部の5人が8の沢カールで熊に襲われ3人が命を落とすという忌まわしい事故があった山であり、昨年も登山者が熊の襲われるという小事故のあった山でイコール熊のイメージが強い山である。

 

8/6:起点となる中札内の気温は32度。幌尻ゲートで車を降りるとめまいを覚える暑さだ。今回は熊撃退用スプレーを持参したのだが今までに使用したことはないので

入山前に駐車場で試射をしてみた。ほんの0.5秒ほシュッと虫除けスプレーのごとく

噴射してみたのだが霧散してあたりで登山準備をしていた人達みんなが涙を流してせき込む始末、これはすごい!至近距離から熊の顔めがけて噴射するば間違いなく熊は退散するだろう。

 

林道を1.5時間、沢を1.5時間ほど歩いて8の沢出合いのキャンプ地に着く。

幸い熊の気配はなく無事テント設営。

朝4:30日帰り装備で出発。札幌では東京オリンピックの女子マラソンがスタートする頃だが今日は昨日よりもさらに暑い。沢を登り999三俣上部から連続する滝は左岸の巻き道でまとめて高巻いて行く。休憩を求める声が後ろから悲鳴のように聞こえてくるがカール直下の湧き水噴出口までピッチを延ばす。地面から直接あふれ出る水は冷たくまさに命の水。1リットルくらいその場で飲み、熱くなった体を生き返らせる。さらに水筒に冷水を満たし、いざ8の沢カールへ。熊の姿はなかったが福岡大の慰霊レリーフを前に参加者の一人が彼らは生きていれば今、私と同じ71歳だったとつぶやいた。

急なカール壁を登り国境稜線に立つと日高側からの風が心地良い。

振り返れればピラミッド峰とその奥にかつて登った「コイボクシュシビチャリ1823峰北面直登沢」さらにカムエク南西稜。まさに私の青春の山たちだ。

 

岩稜を歩き頂上に立つ。この日は先客5名、さらに次々と登山者たちが登って来る。

山の日の連休なのだ。登頂のタイミングで北側からガスが沸き起こり日高山脈最高峰の幌尻岳は見る事が出来なかった。携帯電話を開けて電波を拾い各地の猛暑の状況やオリンピックの結果を知る。この日道東の佐呂間では39.8度を記録。

 

カール下の湧き水でたっぷり水分補給して生気を取り戻すが帰路は長い。

台風接近で明日は雨の予報だったが、先ほど頂上で確認した天気予報ではもう半日、天気は持ちそうだ。その日の下山はあきらめ8の沢出合いにもう1泊することにする。昨夜はテント内が暑くあまりよく眠れなかったので、今日は川原にマットを引いて野宿することにした。夜空をまっぷたつに割る銀河を見上げながらいつしか眠りに落ちる。

 

朝、かゆくて目が覚めた。

熊には襲われなかったが蚊に襲われたようだ。

熊スプレーよりも蚊取り線香の方が重要だったかな。